FXのサヤ取りとは?
FXにおけるサヤ取りとは、ある銘柄は売りポジション、ある銘柄は買いポジションを両建てで保有し、その価格差やスワップの差異を利用して利益を上げる手法です。
両建てすることで一方の銘柄が利益を出してももう一方はマイナスですので、実際に得られる利益は少なくなります。
しかし、価格変動リスクを抑えることができるため、年に数回ある暴落に巻き込まれることがなく、大きな損失に繋がりにくいため長期的に見てとても安全な手法です。
FXのサヤ取りには2種類ある
一般的なトレーダーさんがおこなうサヤ取りには2種類存在します。
1つは、FX業者のスワップ差を利用する「スワップポイントのサヤ取り」、もう一つは、豪ドル円や、NZドル円のように似たような動きをする通貨ペアのサヤ(価格差)を利用して取引する、「為替差益のサヤ取り」です。
スワップポイントのサヤ取り
スワップポイントのサヤ取りはFX業者間が提供する、スワップポイントの差を狙う手法で、下記の手順で行います。
1 AとBの2つのFX業者に口座を開設する
2 買いスワップが高い業者で通貨Aを買いエントリー
3 売りスワップが安い業者で上記と同じ通貨Aを売りエントリー
買いスワップと売りスワップの差を利用する
買いスワップが高い業者で買い、売りスワップが低い業者で売りというのは下記のようなイメージです。
A社 | B社 | C社 | D社 | |
買いスワップ | 200円 | 150円 | 100円 | 50円 |
売りスワップ | -150円 | -120円 | -80円 | -130円 |
買いスワップが高い(200円)のA社である通貨を買い、売りスワップが低い(-80円)C社で同じ通貨を売って両建てをします。
すると、「200円 – 80円」の差額「120円」をスワップで毎日受け取れるのに、両建てしているため為替変動リスクはゼロで運用することができます。
なぜスワップポイントが会社ごとに異なる?
会社名 | スワップ種別 | 米ドル円 | ユーロ円 | 豪ドル円 | NZドル円 | ポンド円 | ランド円 |
GMOクリック証券 | 買い | 2円 | -20円 | 3円 | 5円 | 3円 | 90円 |
売り | -5円 | 17円 | -4円 | -8円 | -12円 | -120円 | |
LIGHT FX | 買い | 2円 | -17円 | 2円 | 8円 | 3円 | 9.1円 |
売り | -5円 | 15円 | -5円 | -11円 | -6円 | -9.1円 | |
DMM FX | 買い | 7円 | -17円 | 1円 | 8円 | 3円 | 8円 |
売り | -10円 | 14円 | -4円 | -11円 | -6円 | -11円 | |
SBI FXトレード | 買い | 2円 | -17円 | 0円 | 5円 | 0円 | 6円 |
売り | -6円 | 12円 | -5円 | -10円 | -5円 | -9円 | |
みんなのFX | 買い | 2円 | -17円 | 2円 | 8円 | 3円 | 8.1円 |
売り | -5円 | 15円 | -5円 | -11円 | -6円 | -8.1円 |
※2021年12月3日時点
上記は各FX業者ごとのスワップポイント一覧です。
ここを見ると業者ごとにスワップポイントが異なるのがよくわかりますね。
ではなぜこのようにスワップポイントに差が出るのかといいますと、それはFX業者の「調達力」が関係しています。
じつはFX業者は、銀行からの借金で皆さんのレバレッジを賄っています。国内業者はレバレッジ25倍までOKですが、FX業者は顧客の保証金×25倍の資金を持っていないことがほとんどです。
そのため銀行にお金を借り、金利手数料を銀行に支払っています。そのコストが借入先の銀行によって異なりますので、各社のスワップポイントに差が出てくるわけです。
スワップサヤ取りのデメリット
スワップサヤ取りの注意事項として、まずスワップポイントは日々変更されるということです。
昨日までは高かったA社のスワップが、突然安くなったりすることがあり、その場合は会社を乗り換える必要が出てきたりします。
また、利益を生むのが非常に遅いというのもデメリットです。
日々の監視などが必要がない、とても楽な手法なので文句は言えませんが、通貨を購入する際にはスプレッドなどで実質の手数料がかかりまして、スワップ差益でその手数料分を取り戻すのにもだいたい1~2週間程度はかかるので、気軽に業者を変えるのも難しい手法ではあります。
スワップサヤ取りの失敗パターン
スワップポイントサヤ取りはノーリスクと言われますが、実際には下記の2つのパターンで損失を生むことがあります。
①急激な上昇で売りポジションのみ決済(ロスカット)されてレートが下がる
②急激な下落で買いポジションのみ決済(ロスカット)されてレートが上がる
スワップサヤ取りは資金力が物を言う手法のため、ハイレバレッジでポジションを持って放置した結果、口座の保証金が足りなくなって上記のパターンにハマる人が多いです。
そのため、ハイレバ完全放置は避けて保証金のチェックは定期的に行いましょう。
為替差益のサヤ取り
続いては為替差益のサヤ取り解説です。
手法としては、上記のように似たような動きをする2つの通貨ペア(この場合は豪ドル円&NZドル円)の価格差(サヤ)が広がったところで高い方を売り、安い方を買ってサヤが縮んだところで決済するという方法です。
1 似たような動き(相関が高い)通貨ペアを見つける
2 割高の通貨を売り、割安の通貨を買い
サヤの乖離を見つけるのに便利なツール
一般的なトレーダーさんが似たような動きをしている通貨を見つけるには、ヒストリカルデータから価格を抜粋し、エクセルなどを使って相関係数を使って見つける方法もありますが、多少の知識が必要ですので、実際には目視やネットのおすすめ通貨ペアなどの記事を読んで取引している方がほとんどかと思います。
一応目視で似たような動きを見つける場合におすすめのツールとして、ここではトレーディングビューとMT4(メタトレーダー4)をご紹介しておきます。
トレーディングビュー(Tradeingview)
こちらは豪ドル円とNZドル円を折れ線グラフで比較したもの
Tradeingviewは2011年にアメリカのTradingView社が開発したオンラインチャートです。MT4のようにPCにインストールする必要はなく、株や仮想通貨など対応商品も幅広く、使い勝手も上々です。
月額利用料がかかりますが、無料プランでも分析には十分な機能が開放されています。
MT4の場合、無限にあるIndicatorを導入できる拡張性が売りですが、Tradeingviewの場合、基本だけで分析ツールが充実しているのが特徴です。
MT4と通貨ペアを重ねるインジケーター
MT4は世界で一番使われているロシア製のチャート分析ソフトです。多くのFX業者で標準のチャートツールとして提供されています。
基本設定では通貨ペアを比較する機能はありませんが、無料のIndicatorで『OverLayChart button』というチャート上に別の通貨を重ねて表示できるものが存在します。
これをつかえば似たような動きをしている通貨の比較が簡単にできるようになります。
為替差益サヤ取りの失敗例
為替差益を狙うサヤ取りは安全と言われていますが、何も考えずに似たような動きをしている通貨でのサヤ取りで良くロスカットになるパターンがあります。
それはサヤが想定よりも開きすぎた場合です。
両建てで売っていた銘柄がさらに高く、買っていた銘柄が更に安くなって損失が倍の勢いで増えてしまう現象は、通称「股裂き」と呼ばれてサヤ取りで一番厳しい状態です。
この股裂きは為替差益を狙うサヤ取りではよく発生しまして、この対策として損切り設定が必須となります。
股裂きを食らったトレーダーさんは、サヤ取りの安全神話に疑問を持ち、さらに両建てのため利益が小さいこともあり、サヤ取りに活路を見いだせずにをやめてしまう人も多数ですが・・・
サヤ取り手法が勝てない理由
まずはなにも考えず上記の動画を見ていただきたいです。
規則正しく打たれた杭の間をたくさんの玉が流れていくと、自然と玉は中央に多く集まり、両端には少なく分布します。
これを統計の世界では「正規分布している」と表現します。
サヤ取りで差益を狙うためには正規分布しているデータを使わなければいけない
為替差益を狙うサヤ取りトレードで股裂きを食らってしまう理由としては、選んだ通貨ペアのサヤの分布が、正規分布していないからの一言に尽きます。
正規分布をわかりやすく身長に例えますと、日本人男性の平均身長は170センチ前後で、その周辺にもっとも多くの人が当てはまり、逆に190センチ以上や150センチ以下となると極端に少なくなりますが、そのように中央の値のボリュームが多くなり、中央から離れるほど均等にボリュームは少なくなっていくデータのことです。
正規分布の表はきれいな山なりの形になり、端にいけばいくほどレアな数値(身長で言うと150センチ以下、190センチ以上)となり、ボリンジャーバンド(標準偏差)でいうと2σ、3σにあてはまりますね。
日本人男性で身長150センチ以下や190センチ以上が少ないことから、正規分布しているデータは、数値の上でこれ以上はありえないという限界値が存在していることを示します。
通貨の動きは正規分布をしていない
みなさんも御存知の通り、通貨は一方向に動き続けるといったモメンタム(勢い)があります。つまり身長のように一定の値に多くのデータが集中することはなく、上記のグラフのように価格が偏るため正規分布を描くことは少ないです。
例えばドル円の場合、今日が100円なら明日は100.5円で、明後日は99.5円というように100円を中心にして価格が均等にばらつく動きよりも、100円→101円→101.5円→102円のようにトレンドが出て偏る動きが多々あります。
そのように正規分布していない性質を持つ通貨でサヤ取りを行っても、「これ以上サヤが開かないだろう」という考え方は、統計的な裏付けがないため、意味がないということです。
残念ながら為替差益を狙うサヤ取りは難しい
ここまでの解説で、為替差益を狙ったサヤ取りは正規分布しているデータを見つけない限り勝てないことを少しでも理解していただけていれば幸いなのですが、問題はどうやって正規分布をしているデータを見つけるのか?ということです。
実は為替の場合、2銘柄を選んでそのサヤ(価格差)を分析しても、サヤが正規分布している為替ペアはほぼ存在しません。
そこですべての為替サヤ取りトレーダーさんにおすすめしたいのが、株のサヤ取りです。
為替は国同士のバランスや、金利や政策など影響するニュースがとても多く、価格がほぼランダムウォークしています。
しかし株価は、企業が「自社の株価が一定の水準になったら自社株買いをする」、「一定上の利益があれば積極的に先行投資をしていく」、「一定以上の利益があれば配当金を出す」、「一定の価格になると機関投資家が参入してくる」など、なにかしら一定の適正価格を持っている場合が存在し、正規分布するペアが複数存在します。
為替差益のサヤ取りで良い成績をあげれていないトレーダーさんは、一度株のサヤ取りを試してみることをおすすめします。株ラボでは初心者の方が1からサヤ取りを覚える手順を解説しています。
また、正規分布を見つけるツールに関しては日経225銘柄でしたら無料で分析可能なBLSトレードを下記で解説していますのでぜひ参考にしてください。