正規分布していないデータで“逆張り”してはいけない
この記事で確認すること
正規分布が表しているもの。
正規分布と平均回帰の違い。
ベル型のヒストグラムをBLSで重視する理由。
ヒストグラムをペア選定のフィルターとして使う方法。
正規分布は、データが平均の周辺にどのように集まっているかを表す分布モデルです。
サヤ取りでは、過去のサヤや適正乖離率が中央付近に多く集まり、そこから離れるほど出現回数が少なくなるペアがあります。
中央付近を軸にサヤの拡大と縮小を繰り返してきたペアでは、その値動きの結果として、ヒストグラムがベル型に近づくことがあります。
そのためBLSでは、ベル型に近い分布を、過去の価格関係が比較的安定していたペアを選別するためのフィルターの一つとして使います。
正規分布とは
正規分布は、平均値の周辺にデータが多く集まり、平均から離れるほど出現数が少なくなる分布です。
中央が高く、左右へなだらかに低くなる形から、ベルカーブや釣鐘型とも呼ばれます。
平均からどのくらい離れているかは、標準偏差を使って表します。
平均±1標準偏差
理論上は、全体のおよそ68.3%が含まれます。
平均±2標準偏差
理論上は、全体のおよそ95.4%が含まれます。
平均±3標準偏差
理論上は、全体のおよそ99.7%が含まれます。
この68.3%、95.4%、99.7%は、対象データが正規分布に従う場合の理論値です。
金融市場の価格やサヤへ、そのまま反転確率として当てはめる数字ではありません。
ヒストグラムは値の出現回数を表す
正規分布の形は、ヒストグラムで確認できます。
ヒストグラムの横軸は値の範囲、縦方向の棒の高さは、その範囲へデータがどの程度集まったかを表します。
中央付近の棒が高ければ、観測期間中に中央付近の値が多く現れたことが分かります。
左右へ離れるほど棒が低くなっていれば、中央から大きく離れた値は少なかったということです。
ただし、ヒストグラムでは、値がどの順番で現れたかまでは分かりません。
前半から後半へ一方向に移動したデータでも、全期間をまとめると中央の高い山に見える場合があります。
ヒストグラムでは、どの値が何回現れたかを確認します。
平均から離れた後に戻ったかどうかは、時系列チャートで別に見ます。
正規分布と平均回帰は別に考える
正規分布は「値の分布」を表します。
平均回帰は「時間の経過とともに、平均から離れた値が中央方向へ戻る動き」を表します。
この二つは同じものではありません。
一方で、まったく無関係というわけでもありません。
サヤが平均付近を中心に拡大と縮小を繰り返し、長期間にわたって中央へ戻る動きが続いた場合、観測される値は中央付近へ多く集まりやすくなります。
その結果として、ヒストグラムが左右対称のベル型に近づくことがあります。
平均回帰が続いた結果
中央付近で観測される回数が増える。
極端に離れた位置の出現回数が少なくなる。
ヒストグラムがベル型に近づくことがある。
つまり、ベル型のヒストグラムは平均回帰を保証するものではありませんが、過去に中央付近を軸とした往復が続いていた可能性を示す材料にはなります。
BLSでは、この特徴をペア選定のフィルターとして利用します。
BLSでは正規分布に近い形を選別条件の一つとして見る
サヤ取りでは、2銘柄を組み合わせただけで安定したサヤが作られるわけではありません。
一方向へ広がり続けるペアもあれば、時期によって中心が大きく変わるペアもあります。
その中から、過去のサヤが中央付近へ集まり、左右の偏りが小さいペアを選ぶことで、極端に片寄ったペアを除外しやすくなります。
私は、ヒストグラムがベル型に近いかどうかを、ペアを候補へ残すための重要な確認項目として使っています。
ただし、分布の形だけで仕掛けを決めることはありません。
時系列でサヤが実際に往復していたか、散布図の形が崩れていないか、片方の企業に個別材料が出ていないかも合わせて確認します。
ボリンジャーバンドの確率をそのまま使えない理由
ボリンジャーバンドは、移動平均線の周囲に、一定期間の標準偏差を使ったバンドを表示する指標です。
価格が±2σや±3σへ到達すると、直近の平均と値動きのばらつきに対して、現在価格が外側へ離れていることが分かります。
しかし、±3σへ到達したことだけでは、反転を判断できません。
一般的なボリンジャーバンドでは、固定された平均と標準偏差ではなく、移動平均と移動標準偏差を使います。
また、金融データにはトレンド、急騰、急落、ボラティリティの変化があります。
そのため、正規分布における99.7%という数字を、そのままチャート上の反転確率として使うことはできません。
バンドウォークとベル型のヒストグラムは別の話
トレンドが続くと、移動平均とバンドも価格を追うため、価格が外側のバンド付近を推移し続けることがあります。
これがバンドウォークです。
一方、BLSのヒストグラムでは、一定期間のサヤや適正乖離率がどの範囲に多く現れたかを確認します。
ボリンジャーバンド
直近の移動平均と標準偏差に対して、現在価格がどの位置にあるかを見る。
BLSのヒストグラム
観測期間中のサヤや適正乖離率が、どの範囲へ集まっていたかを見る。
どちらも標準偏差や分布に関係しますが、見ている対象と役割は同じではありません。
株価分析では何を分布として見るのか
「株価は正規分布する」「株価は正規分布しない」と一括りにすると、話が分かりにくくなります。
株価分析では、何のデータを集計しているかを分けて考える必要があります。
株価水準
株価水準は、ある日の終値そのものです。
企業の成長、業績悪化、増資、相場環境などによって長期間にわたり水準が変化します。
そのため、固定された平均を中心に分布するデータとしては扱いにくい面があります。
株価リターン
リターンは、前日から当日までに株価が何%変化したかを表すデータです。
株価水準よりは分布として扱いやすいものの、実際のリターンには正規分布の想定より急騰や急落が多く現れることがあります。
2銘柄のサヤ・価格比・適正乖離率
サヤ取りでは、2銘柄の価格差、価格比、適正乖離率などを分析します。
値動きの似た2銘柄を組み合わせると、共通する相場変動の影響が小さくなり、単体株価より一定の範囲へ集まりやすいペアがあります。
ただし、すべてのペアがベル型の分布になるわけではありません。
BLSでは、ペアごと、期間ごとに分布を確認します。
ベル型に近い形は、過去の価格関係が比較的安定していた可能性を示すフィルターとして使います。
BLSのヒストグラムで確認するポイント
BLSのヒストグラムでは、過去のサヤや適正乖離率が、観測期間中にどの範囲へ集まっていたかを確認できます。
私が見るのは、単にベル型かどうかだけではありません。
中央付近への集まり方、左右の偏り、裾の長さ、山の数、表示期間を変えたときの形まで確認します。
中央付近への集まり方
中央付近の棒が高く、左右へ離れるほど棒が低くなる形は、観測期間中に中央付近の値が多く現れていたことを示します。
サヤが中央付近を行き来してきたペアでは、このような形が現れることがあります。
一方で、特定の範囲だけに棒が集中していたり、中央部分が平らになっていたりする場合は、安定した一つの中心を読み取りにくくなります。
ベル型に近いヒストグラムは、中央付近を軸にサヤが推移してきた可能性を確認する材料になります。
ただし、見た目だけで正規分布と断定せず、時系列の動きも合わせて見ます。
左右の偏りと裾の長さ
中央から左右へ同じように棒が減っているかを確認します。
片側だけ裾が長い場合は、観測期間中に一方向への大きな動きが多かった可能性があります。
ただし、左右の歪みだけで原因までは特定できません。
一方向へのサヤ拡大、個別材料、観測期間の途中で起きた価格関係の変化など、複数の原因が考えられます。
このようなペアは、サヤチャートと散布図を開き、どの時期から形が崩れたのかを確認します。
山が二つ以上に分かれていないか
ヒストグラムに山が二つ以上ある場合は、期間中に中心となる水準が変わった可能性があります。
例えば、期間の前半は低い範囲、後半は高い範囲にサヤが集まっていた場合、全期間をまとめると二つの山ができます。
この状態では、全期間の平均値を一つの中心として扱いにくくなります。
私は山が分かれて見える場合、表示期間を短くし、どの時期から分布が変化したのかを確認しています。
表示期間を変えても形が保たれるか
短期間だけを見ると、偶然ベル型に見えることがあります。
反対に、長期間をまとめすぎると、現在とは異なる価格関係まで混ざり、分布が広がる場合があります。
BLSでは表示期間を変え、短期と長期の両方で分布を比較します。
短期だけ整っている場合は、データ数が少なくないかを確認します。
長期にすると崩れる場合は、途中で中心となる水準が変わっていないかを確認します。
一つの期間だけで判断せず、期間を変えても中央への集まり方が大きく崩れないペアを優先します。
ベル型の分布をペア選定のフィルターとして使う
BLSにおけるヒストグラムの役割は、将来の反転位置を断定することではありません。
過去の価格関係が一方向へ偏り続けたペアや、中心となる水準が何度も変わったペアを候補から外すために使います。
私が候補として残しやすいのは、次のような形です。
中央付近の出現回数が多い
観測期間中に、中心となる範囲へサヤが集まっています。
左右の偏りが小さい
片側だけに長い裾が伸びていません。
山が一つにまとまっている
期間中の中心となる水準を把握しやすい形です。
表示期間を変えても大きく崩れない
一時的なデータだけでベル型になっていないかを確認できます。
こうした条件を満たすペアは、過去に中央付近を軸とした値動きが続いていた可能性があります。
そのため、ベル型に近い分布は、平均回帰しやすい候補を絞るうえで実用的なフィルターになります。
ただし、ベル型という一条件だけで候補を確定することはありません。
ヒストグラムと一緒に確認する3つの資料
BLSでは、ヒストグラムだけでペアを選びません。
分布、時系列、2銘柄の関係を別々の画面で確認します。
サヤチャートで往復の動きを見る
ヒストグラムでは、値が現れた順番が分かりません。
サヤチャートを開き、サヤが中央付近を挟んで拡大と縮小を繰り返しているかを確認します。
ベル型の分布でも、直近のサヤが一方向へ広がり続けている場合は慎重に見ます。
散布図で2銘柄の関係を見る
散布図では、2銘柄の価格関係が一つの帯へまとまっているかを確認します。
ヒストグラムが整っていても、散布図の点群が途中で分断されている場合は、期間中に価格関係が変化している可能性があります。
適正乖離率チャートで現在位置を見る
ヒストグラムでは、過去の分布と現在値の位置を確認できます。
現在の乖離がBLSの基準からどの程度離れているかは、適正乖離率チャートで詳しく見ます。
正規分布に近くても確認が必要なケース
ヒストグラムが整って見えても、直近の状況によっては候補から外します。
直近だけサヤが一方向へ広がっている
長期のヒストグラムは過去のデータを多く含むため、直近の関係変化が形に表れにくい場合があります。
以前は往復していても、現在のサヤチャートで一方向への動きが続いている場合は、過去のベル型だけを基準にしません。
片方の企業に大きな材料が出ている
決算、業績修正、増資、TOB、M&Aなどによって、2銘柄の価格関係が変わることがあります。
過去の分布が整っていても、前提となる企業の状態が変われば、以前と同じ中心へ戻るとは限りません。
取引コストに対して値幅が小さい
分布が安定していても、サヤの値幅が小さすぎるペアでは利益を残しにくくなります。
売買手数料、買方金利、貸株料などを考慮し、コスト控除後の利益を見込めるかを確認します。
ガルトンボードは正規分布を理解するための例
ガルトンボードは、一定の確率で左右へ分かれる試行を繰り返すと、中央付近へ球が多く集まる様子を確認できる装置です。
企業業績や需給、金利、ニュースの影響を受ける金融市場とは条件が異なりますが、正規分布の形を直感的に理解するのに役立ちます。
正規分布とBLSに関するよくある質問
過去に中央付近を軸とした往復が続いた結果として、ベル型に近い分布が形成されることがあります。
そのため、平均回帰しやすい候補を絞るフィルターとして利用できます。ただし、ベル型だけで将来の回帰を保証するものではありません。
すべてのペアが正規分布になるわけではありません。
2銘柄の事業内容や値動きが似ていても、業績差や個別材料によってサヤが一方向へ広がる場合があります。ペアごと、期間ごとに分布を確認します。
分布の端に近いことは、観測期間内では出現回数が少なかった位置にあることを示します。
それだけで反転位置とは判断せず、サヤチャート、散布図、適正乖離率チャート、個別材料を合わせて確認します。
まとめ|ベル型の分布をペア選定に生かす
正規分布と平均回帰は同じものではありません。
ただし、サヤが中央付近を軸に拡大と縮小を繰り返した結果として、ヒストグラムがベル型に近づくことがあります。
BLSで正規分布に近い形を見る理由
中央付近を軸に推移してきたペアを探しやすい。
一方向へ偏ったペアを除外しやすい。
中心が何度も変わったペアを見つけやすい。
平均回帰しやすい候補を絞るフィルターとして使える。
BLSでは、ベル型に近いヒストグラムを重要な選別条件の一つとして使います。
そのうえで、サヤチャートの往復、散布図のまとまり、適正乖離率の現在位置、個別材料を重ねて確認します。



