▶具体的な申告の手順については、「確定申告の始め方ガイド」を参考にしてください。
配当金にかかる税金の基本ルール
まずは、配当金にかかる税金の仕組みを整理しておきましょう。日本の税制では、配当金は受け取る段階で既に税金が「天引き(源泉徴収)」されています。
配当所得とは何か
配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける配当、投資信託(公募株式投資信託)の収益分配金などの所得を指します。
基本的には「株を持っているだけで得られる利益」と考えればOKです。この所得は、原則として他の所得(給与など)と合算して計算されますが、一定のルールに基づき「申告しないこと」も選択できます。
源泉徴収で天引きされている税金の内訳
上場株式等の配当金を受け取る際、銀行口座に振り込まれる金額は、すでに以下の税率で計算された税金が引かれた後の金額です。
- 所得税:15%
- 復興特別所得税:0.315%(2037年まで)
- 住民税:5%
合計:20.315%
例えば、1万円の配当金が出る場合、実際に手元に届くのは約7,968円となります。「意外と引かれているな」と感じるかもしれませんが、この20.315%という数字が、確定申告をするかどうかの重要な比較基準になります。
申告方法は3種類ある(申告不要・総合課税・申告分離課税)
配当金を受け取った後の対応には、大きく分けて3つの選択肢があります。投資初心者の方は「必ず申告しなければならない」と思いがちですが、実は「何もしない(申告不要)」という選択も立派な戦略の一つです。
| 申告方法 | 特徴 | 主なメリット |
|---|---|---|
| 申告不要制度 | 確定申告をせず、源泉徴収だけで完結させる方法です。 | 手続きが不要。配当所得が合計所得金額に含まれないため、扶養控除等に影響しない。 |
| 総合課税 | 給与などの他の所得と合算して税額を計算する方法です。 | 「配当控除」が適用されるため、所得が一定以下なら税金が還付される。 |
| 申告分離課税 | 他の所得とは切り離し、配当専用の税率で計算する方法です。 | 株の売却損(譲渡損失)と相殺(損益通算)ができる。 |
どの方法が最もお得になるかは、あなたの「年収(課税所得)」と「株の売買損益」によって決まります。次の章からは、それぞれの仕組みを詳しく深掘りしていきましょう。
総合課税とは?配当控除が使える仕組み
配当金の確定申告を検討する際、まず候補に上がるのが「総合課税」です。一見すると計算が複雑そうに思えますが、その分、大きな節税メリットを享受できる可能性があります。
総合課税の仕組み
総合課税とは、配当所得を給与所得や事業所得など、他の所得とすべて合算して税金を計算する方式です。合算した後の「課税される所得金額」に応じて、5%から45%の累進税率が適用されます。
「源泉徴収の15%(所得税)より高い税率が適用されたら損をするのでは?」と感じるかもしれません。しかし、総合課税を選んだ場合にのみ適用できる強力な武器が、次に説明する「配当控除」です。
配当控除とは何か
配当控除とは、総合課税を選択した際に、算出された税額から一定額を直接差し引くことができる制度です。
なぜこのような控除があるのか。それは、法人と個人の間での「二重課税」を調整するためです。配当金の元となる企業の利益には、すでに「法人税」が課されています。その後の利益分配である配当金にさらに所得税をフルで課してしまうと、一つの利益に対して二度税金を取ることになってしまいます。
この矛盾を解消するために、配当控除という仕組みで税金を安くしているのです。
配当控除の控除率(所得税・住民税)
配当控除で実際に差し引ける金額は、所得の金額によって異なります。多くのケース(課税所得1,000万円以下)では、以下の控除率が適用されます。
| 所得の区分 | 所得税の控除率 | 住民税の控除率 |
|---|---|---|
| 課税所得1,000万円以下の部分 | 10% | 2.8% |
| 課税所得1,000万円を超える部分 | 5% | 1.4% |
例えば、所得税率が10%の人が総合課税を選んだ場合、10%(税率)ー 10%(配当控除)= 0%となり、配当金にかかる所得税が実質ゼロになる計算です。
申告分離課税とは?損益通算との関係
総合課税が「所得の低さ」を武器にするのに対し、申告分離課税は「投資の損失」を武器にする方法です。他の所得(給与など)とは合算せず、株の利益や配当だけで税金を計算します。
申告分離課税のメリット
申告分離課税を選択する最大のメリットは、株の売却で出た赤字(譲渡損失)と、受け取った配当金を相殺できることです。これを「損益通算」と呼びます。
通常、配当金からは20.315%の税金が引かれますが、もし同じ年に株の売却損が出ていれば、その損失分だけ配当金の利益を打ち消すことができます。結果として、払いすぎた税金が還付金として戻ってくる仕組みです。
株の譲渡損失と通算できる理由
税制上、上場株式等の配当所得と譲渡所得(売却損益)は、同じグループとして扱われます。そのため、投資全体で見て「結局いくら儲かったのか」を基準に課税してくれるのです。
また、その年の損失が大きすぎて配当金と相殺しきれなかった場合でも、確定申告をすれば最長3年間にわたって損失を繰り越すことができます。これを「繰越控除」と言います。
※損益通算の具体的なやり方や、繰越控除の注意点については、こちらの「株の損益通算と繰越控除の完全ガイド」で詳しく解説しています。
配当控除が使えない点に注意
申告分離課税を選ぶ際に最も注意すべきなのは、総合課税で使えた「配当控除」が一切使えないという点です。
申告分離課税の税率は、源泉徴収と同じ一律20.315%です。そのため、「株の損失がない」かつ「所得が一定以下」という人がこの方式を選んでしまうと、配当控除を受けられない分、総合課税よりも手元に残る金額が少なくなってしまいます。
| 比較項目 | 総合課税 | 申告分離課税 |
|---|---|---|
| 適用される税率 | 累進税率(5〜45%) | 一律 20.315% |
| 配当控除 | 利用できる | 利用できない |
| 損益通算 | できない | できる |
総合課税と申告分離課税どちらが得か判断する方法
結局、自分はどの方式を選べばいいのか。その判断基準は「課税所得金額(所得控除を引いた後の金額)」と「株の損益状況」の2点に集約されます。
ここでは、所得税率と配当控除の兼ね合いから、最も有利な選択肢を整理します。
課税所得別の一般的な目安(個別条件で変動)
配当所得(上場株式等)の所得税率は、申告分離課税なら一律15%です。一方、総合課税を選んだ場合は、累進税率から配当控除(10%)を差し引いた実行税率で比較することになります。以下の表がその判断の目安です。
| 課税所得金額 | 総合課税時の所得税率 | 配当控除後の実質税率 | おすすめの方式 |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | -5%(還付) | 総合課税 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 0% | 総合課税 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 10% | 総合課税 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 13% | 総合課税 |
| 900万円超 | 33%〜 | 23%〜 | 申告分離課税 |
※上記は所得税のみの比較です。住民税を含めたトータルの判断は、後述する「住民税の影響」も考慮する必要があります。
還付になりやすいケース
特に以下に該当する方は、総合課税で確定申告をすることで、多くのケースで還付になる可能性がありますが、個別条件によって結果は異なります。
専業主婦・主夫や学生で、他に大きな所得がない場合
年金受給者で、公的年金等の控除を差し引いた後の所得が少ない場合
年収600万円〜700万円程度の会社員(課税所得が900万円以下に収まるケースが多いため)
申告すると損するケース
一方で、以下のケースでは確定申告をしない(申告不要制度)ほうが結果としてお得になる場合があります。
1. 高所得者の場合
課税所得が900万円を超えてくると、総合課税を選んだ際の実質税率(23%〜)が、源泉徴収の15%を上回ってしまいます。高所得者ほど分離課税や申告不要を選択するのが鉄則です。
2. 社会保険料や扶養控除への影響
確定申告をして配当所得を表面化させると、合計所得金額が増加します。これにより、国民健康保険料が上がったり、配偶者控除の対象から外れてしまったりすることがあります。節税額よりも、増える支出や失う控除の方が大きい場合は「申告不要」が正解です。
配当控除の計算方法を具体例で解説
「自分は総合課税の方がお得そうだ」と分かったところで、実際にどれくらいの金額が戻ってくるのか、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。計算は意外とシンプルです。
計算の基本ステップ
配当控除を計算する際は、以下の3ステップで進めます。
- 源泉徴収税額を把握する: すでに引かれている税金(20.315%)を確認。
- 所得税額を計算する: 自分の所得税率を適用し、そこから「配当控除(10%)」を引く。
- 住民税額を計算する: 住民税率10%から「配当控除(2.8%)」を引く。
配当10万円の場合のシミュレーション
課税所得が300万円(所得税率10%の区分)の人が、10万円の配当金を受け取った場合を例に、源泉徴収(申告不要)と総合課税を比較します。
| 項目 | 源泉徴収(申告不要) | 総合課税を選択 |
|---|---|---|
| 所得税(15.315%) | 15,315円 | 0円(※1) |
| 住民税(5%) | 5,000円 | 7,200円(※2) |
| 合計税額 | 20,315円 | 7,200円 |
| 手元に残る金額 | 79,685円 | 92,800円 |
※1:所得税率10% - 配当控除10% = 0%(復興特別所得税は別途かかりますが、控除の影響で還付対象になります)
※2:住民税率10% - 配当控除2.8% = 7.2%
このケースでは、確定申告をすることで13,115円も手取りが増えることになります。配当金の額が大きくなればなるほど、この差は広がっていきます。
住民税の影響も考慮する理由
上の表を見て、「所得税は0円になったのに、住民税は増えている?」と気づいた方は鋭いです。実はここが大きな落とし穴です。
住民税の源泉徴収税率は「5%」ですが、総合課税を選んで申告すると、住民税率は原則「10%」が適用されます。配当控除(2.8%)を引いても実質7.2%となるため、住民税だけを見ると、申告した方が高くなってしまうのです。
住民税申告不要制度と2026年以降の注意点
かつては「所得税は還付を受けるために総合課税、住民税は負担を抑えるために申告不要」という“いいとこ取り”ができました。しかし、税制改正によりその裏技は現在使えなくなっています。
住民税だけ課税方式を変える仕組み(旧制度)
以前(2023年分の申告まで)は、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することが可能でした。所得税で「総合課税」を選んで還付を受けつつ、住民税では「申告不要」を選んで一律5%のままで済ませる、という手法が一般的だったのです。
これにより、住民税が増えることによる「国民健康保険料のアップ」や「扶養からの脱落」を防ぎながら、所得税の還付だけを受けることができていました。
制度変更後に注意すべきポイント
2024年度(令和6年度)から、所得税と住民税の課税方式を一致させなければならないルールに統一されました。つまり、所得税で総合課税を選んだら、住民税も自動的に総合課税(実質7.2%)になるということです。
2026年現在の確定申告で特に注意すべきポイントは以下の3点です。
| 注意すべき項目 | 影響の内容 |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 自治体によりますが、申告した配当所得が保険料の算定基礎に含まれ、年間保険料が数万円〜十数万円跳ね上がるリスクがあります。 |
| 扶養控除・配偶者控除 | 配当を含めた合計所得金額が103万円(または130万円等の基準)を超えると、誰かの扶養から外れてしまう可能性があります。 |
| 介護保険料や医療費負担 | 高齢者の場合、合計所得金額が増えることで病院の窓口負担が2割や3割に引き上げられたり、介護保険料の区分が上がったりすることがあります。 |
「数千円の所得税還付のために申告した結果、保険料が10万円上がってしまった」となっては本末転倒です。自営業の方やフリーランス、年金生活者の方は、還付額だけでなく「社会保険料への波及」まで含めたシミュレーションが不可欠です。
配当金の確定申告手順
ここでは、最も一般的な「上場株式等の配当金」を確定申告する際の流れを解説します。現在は税務署へ行かず、自宅のスマホやPCから「e-Tax」で完結させるのが主流です。
必要書類の準備
まずは、申告に必要な情報を手元に揃えましょう。特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合、基本的には以下の書類1つで完結します。
特定口座年間取引報告書: 証券会社から電子交付または郵送されます。
支払通知書: 一般口座や、特定口座以外で管理している場合に必要です。
マイナンバーカード: e-Taxでの本人確認に使用します。
多くの証券会社では1月中旬〜下旬頃に年間取引報告書が発行されます。電子交付(PDF)で受け取っておくと、e-Taxへのデータ取り込みがスムーズです。
確定申告書への入力場所
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用する場合、以下の手順で進めます。
- 「所得税の確定申告書を作成する」を選択。
- 「収入金額・所得金額の入力」画面で、「配当所得」の項目をクリック。
- 「特定口座年間取引報告書の内容を入力する」を選択し、証券会社から届いたデータをアップロードするか、数値を手入力します。
- ここで「総合課税」または「申告分離課税」を選択するチェックボックスが出てくるので、判断基準に基づいて選択します。
e-Tax入力時の注意点
入力を進める際、特に間違いやすいポイントをまとめました。
| チェック項目 | 注意すべき内容 |
|---|---|
| 配当控除の入力漏れ | 総合課税を選んだ場合、別途「配当控除の入力」画面で計算ボタンを押す必要があります。これを忘れると還付を受けられません。 |
| マイナポータル連携 | 事前に証券会社とマイナポータルを連携しておくと、金額が自動入力されます。入力ミスを防ぐためにも強く推奨します。 |
| 住民税の選択肢 | 2024年分以降、所得税と住民税を分ける選択肢は画面上から消えています。所得税の方式がそのまま住民税にも適用されることを再確認してください。 |
入力が終わると、画面上に「還付される金額」が表示されます。ここでの数字が、事前のシミュレーション通りになっているかを確認するのが成功のコツです。
配当控除でよくある失敗
配当金の確定申告は、正しく行えば大きなメリットがありますが、実は「知らずにやって損をした」という声も少なくありません。特に注意すべき3つの失敗例を紹介します。
申告不要制度のままにしてしまう
最も多い失敗は、「源泉徴収されているから、自分には関係ない」と思い込んで放置してしまうことです。
前述の通り、課税所得が900万円以下の会社員や、所得が少ない専業主婦の方などは、申告するだけで数万円単位の還付を受けられる可能性があります。まずは「自分の課税所得」を確認する習慣をつけましょう。
損益通算との関係を理解していない
「配当控除を受けたいから総合課税」と決めていても、その年に株の売却損が大きく出ている場合は注意が必要です。総合課税を選ぶと、株の売却損と配当金を相殺(損益通算)することができません。
売却損がある場合は「申告分離課税」を選んで損益をぶつける方が、総合課税で配当控除を受けるよりも節税額が大きくなるケースが多々あります。どちらのメリットが上回るか、天秤にかけることが大切です。
住民税増加を見落とす
2026年現在の制度では、所得税で還付を受けても、住民税の負担増(5%→7.2%)や国民健康保険料への影響を忘れてはいけません。特に、会社に副業や投資を知られたくない方は、住民税の金額が変わることで「おや?」と思われる可能性もゼロではありません。
※「配当申告で会社に投資がバレるのが心配」という方は、こちらの「住民税から投資が会社にバレる仕組みと対策」もチェックしておきましょう。
はい、総合課税を選択した場合、住民税率は源泉徴収時の5%から、実質7.2%(10%-配当控除2.8%)へと上がります。所得税の還付額と、住民税・社会保険料の増加額をトータルで比較して判断しましょう。
いいえ、NISA口座で受け取った配当金はもともと非課税です。確定申告の対象にはならず、配当控除を受けることもできません。
まとめ|配当金は課税方式の選択で手取りが変わる
✔ 所得900万円以下 → 総合課税を検討
✔ 損失あり → 分離課税
✔ 扶養・国保影響あり → 申告不要も検討
配当金にかかる税金は、何もしなければ「20.315%」が自動的に引かれて終わりです。しかし、本記事で解説した通り、あなたの課税所得や株の売買状況に応じて「総合課税」や「申告分離課税」を賢く選ぶことで、手元に残るお金を増やすことができます。
最後に、判断のポイントをもう一度おさらいしましょう。
| あなたの状況 | おすすめの選択 |
|---|---|
| 課税所得が900万円以下で、株の損失がない | 総合課税(配当控除を活用) |
| 株の売却損が出ていて、相殺したい | 申告分離課税(損益通算を活用) |
| 高所得者、または社会保険料への影響を避けたい | 申告不要(源泉徴収のみ) |
私自身、これまでに数多くの確定申告の実務に携わってきましたが、制度を知っているかいないかだけで、年間数万円から十数万円もの差が出るケースを何度も目にしてきました。特に「自動で課税されているから最適だろう」という思い込みは、実は一番もったいないことかもしれません。
2026年以降の税制では住民税の扱いがシビアになっていますが、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で試算するだけであればデメリットはありません。まずは一度、自分の数字を入力して還付額をチェックすることから始めてみてください。



