逆日歩(ぎゃくひぶ)とは?
逆日歩は、制度信用取引で空売りをする場合に、貸株料とは別に突然発生する追加コストです。(一般信用取引では発生しません)
取られる金額はその都度変わり「売り建玉数 × ◯円]」という計算方法ですが、その金額はかなり上下しますので、FXで言うマイナススワップの強力版と思っていただければよろしいのかなと思います。
https://twitter.com/n5653711/status/1608378363739242496
逆日歩が発生する仕組み
逆日歩はなぜ発生するかといいますと、例えば上場しているA銘柄がなにか致命的な不祥事を起こしたとします。
すると投資家達が証券会社に一斉にA銘柄に空売り注文を出します。しかし一斉に空売りの注文がはいりますと証券会社が投資家に貸し出す株が足りなくなってしまいます。
そこで証券会社は株などの貸し出しをおこなっている金融会社である「日本証券金融株式会社(日証金)」というところから株を借りてきます。
日証金は潤沢な株の在庫をもっていますが、売りが殺到したときは貸し出せる株の在庫が足りなくなることがあります。そこで日証金は、保険会社や機関投資家などの大口を対象にして入札形式で証券会社に貸し出すための株を集めてきます。
入札形式は貸してくれる方々が「1株10銭(0.1)の金利で10万株貸すよ」っていう人や「1株30銭(0.3)の金利なら20万株貸すよ」っていう方など色々です。
日証金は基本的に値段が安く借りられるものから調達していきますが、トータルでこの時にかかったコストを証券会社へ請求します。そしてこのコストが投資家の方々へ転嫁されるのですが、このコストを「逆日歩」と呼んでいます。
一般信用取引ならば逆日歩は発生しない
制度信用取引で発生する逆日歩は、建玉金額×○%のようにルールが決まっていればよいのですが、残念ながら入札形式で日証金がかき集めてきますので、いくらになるかの予想は難しいです。
そして逆日歩が怖いのはあまりにも株が足りない時に、日証金が高額の金利で集めた場合です。
運が悪いと建玉金額は50万円分なのに、1日1万円が飛んでしまう逆日歩が発生しますので、絶対に逆日歩を避けたい!という方は一般信用取引で売るのが基本です。
一般信用取引は貸株料などの取引コストは制度信用取引よりも高いですが、一般信用取引の空売りでは逆日歩は発生しません。
ですので、決算月に売りが殺到する優待クロスなどを行う場合は基本的には一般信用取引の空売りをおすすめします。
一般信用の売りは銘柄や証券会社によっては必ずしもできるわけではないのでそこはご注意くださいね
逆日歩はお知らせがこない
逆日歩ですが、ある程度予測はできるものの、翌日になるまで逆日歩がいくらつくかは投資家さんにはわかりません。
ネット証券などでも板情報のところに逆日歩についてのお知らせはほとんどの場合で表示されず、多くの場合『信用証金』などの画面を開いて自分で確認しなければいけません。
また、逆日歩がつくということは、すでにお金が取られた後のお話ですので「逆日歩が発表されたら逃げる」ということもできません。
証券会社によると思いますが、逆日歩がつくと約定履歴が後から修正されたり、別で逆日歩が引かれた履歴が作成されたりします。
なお、逆日歩には最高料率が決められています。こちらのページから確認が可能です。
高額な逆日歩が発生した事例
2017年12月 3196ホットランド
ホットランドはたこ焼きのチェーン店「築地銀だこ」を運営している会社です。お食事券が優待で貰えるのですが、人気が出て逆日歩がついた事例です。
逆日歩(品貸料率)が135円(日数6日)もついてしまい、100株で1500円のお食事券だったのですが、それを手に入れるために13500円の高額逆日歩を支払う事となりました。
2017年6月 2702日本マクドナルドHD
こちらは大人気のマクドナルドです。優待クロス初心者がその知名度からついつい手を出してしまう銘柄ですが、結構上級者向けの銘柄です。
2017年の6月ですが3日で198円の逆日歩がついていますね。マクドナルドは100株でハンバーガーとドリンクとサイドメニューが無料で6回分注文できる優待券がもらえるのですが、その権利を19800円でお買い上げということですね・・・
2018年4月 2695くらコーポレーション
こちらは回転寿司でおなじみのくらコーポレーションです。この事例は4月下旬の連休の絡みで4日の逆日歩がついちゃいましたね。なので4月の優待クロスはちょっと注意が必要です。
100株で2500円相当のお食事券につられて制度信用で空売りをした人は、23200円のお支払いでございました。
約10倍・・・一皿1000円のお寿司になりましたね。
逆日歩を確認する方法
手持ちの銘柄に逆日歩が付いているかどうかは日証金のHPを見ると確認することができます→日本証券金融株式会社
日証金のトップページの検索窓に逆日歩が知りたい銘柄を打ち込みますと、下記のような画像がでてきます。
赤枠の見方
品貸料率:1日あたりの逆日歩金額 (0.05だったら5銭)
品貸日数:(その当日に)逆日歩が付く日数
最高料率:その日の逆日歩の上限
逆日歩は必ず公式か証券会社の発表を確認しましょう
こちらはIR BANKの発表
逆日歩は各関連サイトで日々発表されていますが、注意事項としてデータ元は日証金や証券会社などの公式サイトを参照するようにしましょう。
上記の画像は日経新聞とIR BANKの三井住友フィナンシャルグループの逆日歩ですが、日経には逆日歩が付いていないのに、IR BANKには逆日歩がついています。
この違いは日経は東証からデータを持ってきているのに対し、IR BANKはなぜか名証からデータを引っ張ってきているようですが、この違いはサイトを一つ見ただけではわかりません。
とはいえ、どちらのサイトも非常に有用な情報を提供してくれているので、要は使い方ということで、損益に直結する逆日歩の情報は公式から確認するようにしましょう。
逆日歩の正しい計算方法
逆日歩の計算方法は1株あたりの逆日歩(品貸料率)×空売り株数×建玉の保有日数でわかります。
しかし保有日数の数え方が少々複雑で、優待クロスなどで1日しか空売りしていないはずが、3日分の逆日歩がついたりすることが良くあります。
この特殊な逆日歩の数え方を理解する上で知っておかなければいけない大切なことが、
①「株式は取引した日から2営業日後に受渡しが発生する」
②「逆日歩は空売りと決済したそれぞれの受け渡しの日をベースにカウントする」
③「空売りをした日の受渡日から、決済をした日の受渡日の前日で日数を計算する」
の3点です。(ヤヤコシイ・・)
これらを踏まえて逆日歩の日数を数えてみましょう。
逆日歩の受け渡し日について、2営業日後と3営業日後の情報が錯綜しておりますが、2019年7月16日より株式等の決済機関短縮化(T+2化)にともない、受け渡しは1日短縮されていますので、現在は2営業日後の受け渡しになっています。
2019年7月12日まで | 1営業日 | 2営業日 | 3営業日 | 4営業日 |
約定日 | 受渡日 |
2019年7月16日以降 | 1営業日 | 2営業日 | 3営業日 |
約定日 | 受渡日 |
逆日歩が1日つく場合
上記は1日(火曜日)に空売りをいれて、次の日の2日(水曜日)に決済した例です。
空売り・買戻しをおこなったのは1日と2日ですが、逆日歩の基準となるのは「受渡日」です。ですので、2営業日後の3日と4日を数えます。
そして、決済をした日の受渡日の前日で数えますので上記の例ですと、逆日歩は1日となります。
逆日歩が3日ついてしまう例
上記は特に優待クロスなどで気をつけなければいけないところです。
2日(水)に空売りをして3日(木)に買い戻しました。
空売りした分の受渡日は4日(金)ですが、買い戻し注文の受渡日は土日をはさみまして、翌週の7日(月)となってしまいます。
逆日歩は受渡しが行われない土日ももちろんカウントされます。
ですので、逆日歩に適用される期間は、決済をした日の受渡日の前日で数えますので上記の例ですと、逆日歩は3日となります。
逆日歩は事前に予測できるの?
冒頭にでてきた日証金のページから銘柄を選んだ後に「融資・貸株残高」というものを見ると逆日歩が発生するかどうかの判断ができます。
ここには融資の残高と貸株の残高が表示されますが、逆日歩が発生する目安として、融資残高÷貸株残高が0.8や、0.5などと低くなると逆日歩発生の可能性が高まります。逆に2.0以上あれば安心して良いでしょう。
上の画像ですと、2/26日の融資残高÷貸株残高は0.065とかなり低いですが、この日は1株あたり1.5円の高額逆日歩が発生しています。
そしてこの融資残高÷貸株残高の推移も重要です。
例えば優待クロスをおこなう場合、権利付き最終日1週間前から権利落ち日あたりに向けて特に増減がなく横ばいで推移していたら逆日歩発生の可能性は低いですが、権利付き最終日1週間前から権利落ち日に向けて値が減少している場合は逆日歩発生の可能性が高いです。
また、もう少し簡単な判断材料として、上の「融資・貸株残高」表の「差引残高」が日を追うごとに増加している場合も将来的に逆日歩が発生する可能性があります。
以上は銘柄ごとにも変わるので一概には言えませんが、ある程度の逆日歩の予測はできるかと思います。
逆日歩が付いた時の対処方法
逆日歩には2つの相場格言があります。
・逆日歩に買いなし
・逆日歩に売りなし
おや?両方とも逆のことを言っていますね。しかしどちらも正解でありますので、ここを少し解説して行きます。
逆日歩に買いなし
逆日歩がついた銘柄は買ってはいけないという格言です。
ロジックとしては、逆日歩がつくくらい売り方が多いということは市場の目線は売り一色であること。
そして逆日歩がつく銘柄というのはすでにかなり高騰している場合が多いため、これから購入しても利益は小さく、損失は大きくなる可能性が高いので、それを戒める格言です。
しかし逆日歩がつくと、短期的に信用売りをしていた投資家は逆日歩の支払いを嫌がりポジションを解消します。
この売りの解消は買い注文を出すことになり、一時的に株価が上がることも多く、逆日歩の買いが必ずしも悪いということはありません。
逆日歩に売りなし
逆日歩がついた銘柄は売ってはいけないという格言です。
逆日歩がついた銘柄は売り方の買い戻しが発生するので一時的に値上がることが多く、売りで入ると踏み上げられる可能性が高いです。
さらには売り建てした瞬間から逆日歩の支払いが始まってしまうのでコスト的にもよろしくないので、逆日歩の売りはだめだというロジックです。
しかし逆日歩で売り建てが解消されることで、将来的な買い圧力(買い戻し)は減ることになります。
ですので、逆日歩が発生してある程度値が落ち着いてから建てる売玉は、必ずしも悪いことではありません。