為替変動リスクを初心者向けに解説


- 為替変動リスクの基本的な意味
- 換算・取引・経済性リスクの違い
- 企業が行う主な為替リスク対策
- 為替予約や通貨オプションの考え方
為替変動リスクとは?
為替変動リスクとは、為替レートの変化によって、外貨建ての資産や負債、将来の受取額・支払額の円換算額が変わるリスクです。
為替変動リスクが関係する主な場面
- FXで外貨を売買する
- 外貨預金や海外株を保有する
- 海外から商品を輸入する
- 海外へ商品を輸出する
- 外貨建てで代金を受け取る、または支払う
為替レートが有利な方向へ動けば利益になりますが、不利な方向へ動けば損失につながります。
大切なのは、為替変動を完全に当てようとすることではなく、どの程度動くと損益へ影響するのかを事前に把握しておくことです。
為替変動リスクは大きく3種類に分けられる
為替変動リスクは、影響が発生する場面によって、主に「換算リスク」「取引リスク」「経済性リスク」に分けられます。
為替換算リスク
為替換算リスクとは、外貨建ての資産や負債を日本円へ換算したとき、為替レートによって金額が変わるリスクです。
具体例
アメリカの銀行へ1,000ドルを預けているとします。
1ドル100円なら円換算額は10万円です。1ドル110円になれば11万円へ増えますが、1ドル90円になれば9万円へ減ります。
外貨を売却していなくても、円換算した評価額は為替レートに合わせて変動します。
外貨預金や海外株、海外に資産を持つ企業などで発生しやすいリスクです。
為替取引リスク
為替取引リスクとは、売買契約を結んだ日と、実際に代金を受け取る日・支払う日の為替レートが変わることで発生するリスクです。
具体例
日本企業がアメリカ企業から100ドルの商品を仕入れたとします。
契約時は1ドル100円だったため、予定していた支払額は1万円です。
しかし、1か月後の支払日に1ドル110円まで円安が進むと、必要な金額は1万1,000円になります。
このように、契約から決済までの間に為替レートが動き、実際の受取額や支払額が変わるのが為替取引リスクです。
為替経済性リスク
為替経済性リスクとは、為替レートの変化が企業の価格競争力や売上、生産体制へ長期的な影響を与えるリスクです。
具体例
日本で200万円の車を製造し、海外へ輸出している企業を考えます。
1ドル100円なら販売価格は2万ドルですが、1ドル80円まで円高になると、同じ200万円を回収するには2万5,000ドルで販売しなければなりません。
海外での販売価格を上げると競争力が落ち、価格を据え置けば日本円で受け取る利益が減ります。
経済性リスクは、一度の取引だけでなく、企業の販売地域や生産拠点を見直す原因にもなります。
為替変動リスクへの主な対処方法
為替リスクへの対策は、将来の為替レートを固定する方法と、外貨の受取額・支払額を相殺する方法に分けられます。
どの方法にも費用や制約があるため、リスクを完全になくすことより、損失の幅を管理する目的で使われます。
為替予約で将来のレートを固定する
為替予約は、将来の決められた日に、あらかじめ決めた為替レートで外貨を売買する契約です。
予約レートは、契約時点の為替レートと同じとは限りません。通貨間の金利差や契約期間などを反映して決まります。
例えば、日本の輸出企業が3か月後に100万ドルを受け取る予定で、銀行と1ドル110円の為替予約を結んだとします。
3か月後に円高が進んでも、契約どおり100万ドルを1億1,000万円へ交換できます。
受取額を事前に確定できる一方、その後に円安が進んでも、原則として市場の有利なレートでは交換できません。
また、企業が為替予約を利用する際は、輸出入代金などの実需をヘッジする目的で使われることが多く、契約後は自由に取り消せない場合があります。
債権と債務をマリーする
債権・債務のマリーとは、同じ通貨で受け取る金額と支払う金額を近づけ、為替変動の影響を相殺する方法です。
例えば、100万ドルの売掛金を受け取る予定がある企業が、同じ時期に100万ドルの買掛金を支払えば、受け取ったドルをそのまま支払いへ回せます。
日本円へ交換する金額が減るため、為替レートの影響と両替コストを抑えられます。
ただし、受取日と支払日、通貨、金額を完全に一致させるのは簡単ではありません。実際には、一部だけを相殺し、残った金額へ為替予約などを使うこともあります。
リーズ&ラグズで決済時期を調整する
リーズ&ラグズは、外貨を受け取る時期や支払う時期を前後へずらし、為替変動の影響を抑える方法です。
リーズは決済を前倒しし、ラグズは決済を先延ばしすることを指します。
例えば、輸入企業が今後の円安を見込んでいる場合は、外貨の支払いを早めることで、支払額が増える前に決済できます。
反対に、円高を見込んでいる場合は、取引先の了承を得たうえで支払いを遅らせることがあります。
金融商品を使わずに対応できますが、為替予測が外れれば不利になるほか、決済条件の変更が取引先との関係へ影響する点に注意が必要です。
通貨スワップで資金調達通貨を交換する
通貨スワップは、異なる通貨の元本と金利を一定期間交換する取引です。
例えば、日本企業が円で資金を調達し、その資金をドルへ交換して海外事業へ使う場合があります。
契約期間中は、決められた条件に沿って相手へ金利を支払い、契約終了時には元本を再び交換します。
将来交換する為替レートや支払条件をあらかじめ決めておくことで、長期間にわたる為替変動の影響を抑えられます。
ただし、通貨スワップは契約内容が複雑で、取引相手が契約を履行できなくなる信用リスクもあります。主に企業や金融機関が、外貨の資金調達や長期債務の管理に利用する方法です。
為替変動を販売価格へ転嫁する
為替のパス・スルーとは、為替レートの変動によって増えた仕入れコストなどを、商品の販売価格へ反映する方法です。
例えば、円安によって海外から仕入れる商品の原価が上がった場合、その一部を販売価格へ上乗せします。
金融商品を使わずに利益率の低下を抑えられますが、すぐに値上げできるとは限りません。
競合商品との価格差が広がれば売上が落ちる可能性もあるため、実際には企業努力で吸収する部分と、販売価格へ転嫁する部分を分けて対応します。
通貨オプションで不利な変動に備える
通貨オプションは、将来の決められた日に、あらかじめ決めた為替レートで外貨を買う、または売る権利を取引する金融商品です。
為替予約との違いは、オプションの買い手が権利を使うかどうかを選べる点にあります。
権利を購入する際には、プレミアムと呼ばれるオプション料を支払います。
外貨を買う権利の具体例
3か月後に100ドルを支払う予定があり、現在の為替レートが1ドル100円だとします。
将来の円安に備え、1ドル105円でドルを買える権利を購入します。
- 3か月後に1ドル110円になった場合は、権利を使って1ドル105円でドルを購入する
- 3か月後に1ドル100円だった場合は、権利を使わず市場でドルを購入する
不利な円安が進んだ場合には権利を使い、円高など有利な方向へ動いた場合には権利を放棄できます。
ただし、市場の為替レートに関係なく、最初に支払ったオプション料は戻りません。
通貨オプションのメリット
- 不利な為替変動に備えながら、有利な変動の恩恵を残せる
- 買い手が権利を使うかどうかを選べる
- 外貨の売買レートに上限や下限を設けられる
オプションの買い手が権利を使わずに失う金額は、原則として支払ったオプション料までです。
ただし、外貨そのものが必要な場合は、別途その購入代金が必要になります。
通貨オプションのデメリット
- 権利を購入するためのオプション料がかかる
- 満期日や権利行使価格など、理解すべき項目が多い
- 条件によってはオプション料が高くなる
為替予約より柔軟性がありますが、その分だけ仕組みは複雑です。

個人ができる為替変動リスクへの対策
為替予約や通貨スワップは企業向けの対策ですが、外貨預金や海外株、FXを利用する個人にも為替変動リスクはあります。
個人の場合は、複雑な金融商品を使うよりも、外貨へ交換する時期や投資金額を分ける方が取り組みやすいです。
一度に全額を外貨へ交換しない
為替レートが有利に見えても、一度に全額を外貨へ交換すると、その後に円高が進んだときの影響が大きくなります。
購入時期を数回に分ければ、特定の為替レートで全額を交換するリスクを抑えられます。
ただし、分割しても損失がなくなるわけではなく、交換回数が増えることで手数料がかさむ場合があります。
円換算後の損益まで確認する
海外株や外貨建て商品では、現地通貨で利益が出ていても、円高によって円換算後の利益が減ることがあります。
反対に、投資商品の価格が下がっていても、円安によって円換算額が増える場合があります。
商品自体の値動きと為替差損益を分けて確認すると、損益の原因が分かりやすくなります。
必要な資金まで外貨へ替えない
生活費や近いうちに使う予定の資金まで外貨へ替えると、円へ戻す時期を選べなくなります。
為替レートが不利なときでも換金しなければならず、損失が確定する可能性があります。
外貨建て商品へ使うのは、すぐに円へ戻す必要がない資金に限定するのが基本です。
FXでは取引数量を抑える
FXでは、少ない証拠金で大きな金額を取引できるため、小さな為替変動でも損益が大きくなります。
為替変動リスクを抑えるうえでは、相場の方向を当てることよりも、取引数量と損切り位置を先に決めることが重要です。
レバレッジを高くするほど、予想と反対へ動いたときに耐えられる値幅は小さくなります。
為替変動リスク対策で注意したいこと
為替ヘッジを行っても、すべての損失をなくせるわけではありません。
為替レートを固定すれば不利な変動を避けられますが、その後に有利な方向へ動いた場合の利益も受けにくくなります。
- ヘッジには手数料やオプション料などの費用がかかる
- 為替予約は原則として自由に取り消せない
- 決済時期をずらす方法は、取引先の了承が必要になる
- 為替予測を前提とした対策は、予測が外れる可能性がある
- 通貨スワップやオプションには契約内容を理解する知識が必要
対策を増やしすぎると、為替差損よりもヘッジ費用の方が大きくなることもあります。
まずは、為替レートがどの程度動くと受取額や支払額へ影響するのかを確認し、必要な範囲だけ対策を行います。
為替変動リスクのまとめ


今回の要点
- 為替変動リスクには、換算・取引・経済性の3種類がある
- 企業は為替予約、マリー、リーズ&ラグズなどで影響を抑えている
- 通貨オプションは不利な変動に備えつつ、有利な変動を残せる
- 個人は購入時期と投資金額を分け、円換算後の損益まで確認する

